石積み階段園みかんシステムとは

世界農業遺産

The Stone Terraced Mikan Orchard System
of Arida-Shimotsu Region

石積み階段園みかんシステムってなに?

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 有田・下津地域は、400年以上前から農家の手により壮大な石積み階段園を築き、維持してきました。江戸時代には日本で初めての共同出荷組織「蜜柑方」が結成されました。
 自然条件を巧みに活かして様々な品種のみかんを導入、貯蔵技術も駆使することで、8か月もの長期にわたる安定出荷を実現した、世界的に重要な農業システムです。

有田・下津地域の石積み階段園みかんシステムの特徴

  • 石積み階段園

    石積み階段園

     江戸時代から、山を開墾して石積み階段園を築き、高品質のミカンを生産しています。こういった世界的にも珍しい土地利用により、独自の景観が形成されました。

  • みかんの貯蔵庫

    みかんの貯蔵庫

     下津地域では、収穫後のみかんを木造・土壁の貯蔵庫で貯蔵し、糖分と酸味のバランスを整え、自然の力で甘みを増した‘蔵出しみかん’が1月から4月にかけて出荷されます。

  • 伝統的な神事

    伝統的な神事

     有田・下津地域には、みかんにまつわる深い伝統文化が根付いています。みかんの神に豊作を祈願する神事が催され、江戸時代に嵐の中、海に船出して江戸にみかんを運んだ豪商「紀伊国屋文左衛門」にちなんだ祭りが、毎年開催されています。

  • 苗木の供給

    苗木の供給

     この地域では、一部のみかん農家が苗木生産を担っています。地元の苗木生産者は品種の特性を維持するため、品種の原木により近い樹から接ぎ木用の枝をとり、苗木を生産しています。こうして品種の遺伝的特性が保たれ、果実品質の維持に貢献しています。

地形を活かした独自の栽培法

 海岸沿いから内陸部にかけての険しい斜面に、農家たちは石を積み上げて段々畑を造成してきました。この先人らの手により築き上げられた石積み階段園は、排水性や日当たりが向上するほか、石垣の保温効果や光の反射効果などにより、高品質なみかん生産に寄与してきました。

通年供給を実現する工夫

 有田と下津という二つの地域は、それぞれ異なる気候特性を持っています。この地理的な違いを活用し、さらに複数の品種を栽培することで、収穫時期を分散させています。特に下津では、収穫後のみかんを木造の蔵で寝かせる伝統技法が継承されており、この「蔵出し」技術によって鮮度を保ちながら出荷時期を調整できます。こうした取り組みの結果、秋から翌年にかけて途切れることなく高品質なみかんを市場へ届けることが可能となっています。

生態系を守る土地利用

 この地域では、山頂付近の雑木林、中腹のみかん園、麓の居住区という三層構造の土地利用が特徴的です。雑木林に棲む猛禽類、石垣に営巣する鳥類、人里近くに生息するコウモリなど、それぞれが害獣や害虫の天敵として機能し、自然の力を借りた農業を実践しています。

地域に息づく伝統

 みかんの収穫を祝う祭礼行事など、柑橘栽培に関連した文化が今も地域社会に深く浸透しています。また、江戸期には「蜜柑方」と呼ばれる共同出荷の仕組みが日本で初めて組織化され、栽培ノウハウの共有や販売体制の整備が進められた歴史があります。

みかん農業が育む共生関係

みかん農業が育む共生関係

 有田・下津地域では伝統的に、山の尾根に雑木林があり、その下に石積み階段園、麓には住宅地という配置となっています。石積み階段園は、みかんの木々がほどよく離れて植えられえた環境です。ここでは、図のようにみかんの樹の中に小鳥が巣を作り、害虫の青虫を餌に子育てをしています。雑木林には猛禽類が住みつき、みかんの根を食い荒らすネズミを石積み階段園の上空から狙っています。住宅地にはコウモリが住みつき、カメムシ類やチョウ類といったみかんの果実や葉を食害する昆虫を食べてくれます。このように、雑木林、石積み階段園、住宅地の生物が密接に絡み合い、特有の生態系が築かれています。